読書感想文

【要約・感想】高知新聞「追跡・白いダイヤ」がヤバすぎる!高知県のウナギ業界の闇を暴露する衝撃の一冊

2022年9月23日

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大丈夫かよ、高知新聞・・・

高知新聞のノンフィクションは、高知県政を揺るがした「モード・アバンセ」事件を深く切り込んだルポルタージュ「黒い陽炎」が有名ですが、今回紹介する「追跡・白いダイヤ」は匹敵するぐらいに面白い。

ページ数としては、全部で167ページなので、2時間あれば読める程度の分量ですが、密度が異常に高いのが、本書の特徴。

というか、本の1ページ目から、「暴力団関係者」というパンチの効いたパワーワードが出たと思ったら、「取材はやめちょけ。刺されるぞ」という戦慄の言葉!!

「二重価格」「中央官僚」「国会議員」「シラス王」などなど、・・・という心躍る固有名詞が出てくる・・・。

本書は、足掛け5年の取材を要した、高知新聞記者のジャーナリズムとして生きざまを見せてくれる渾身の一冊です。(新聞協会賞・菊池寛賞を受賞!)

ということで、今回は「追跡・白いダイヤ」の要約と感想を書きます。

 

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~ 単行本 – 2022/9/20

 

「追跡・白いダイヤ」の要約

本書は、「採捕編」「流通編」「規制編」の3部構成となっており、番外編としてウナギ資源の専門家である中央大学の海部健三教授のインタビューと今後のシラスウナギ取引やウナギの資源管理の在り方について論じています。

 

第一部の「採捕編」の要約

・1980年度で約7トンだったシラスウナギの採捕量が、2018年では過去最低の78.5キログラムまで落ち込み絶滅危惧種となった。

・採捕量が下がることに反比例して、取引価格が平均単価が正規ルートで1キログラムで250万円(1匹あたり500円)高騰!

・取引価格が金を上回った時期もあることから「白いダイヤ」と呼ばれるようになる。

・シラスウナギは、県知事が特例的に許可する「特別採捕」が無いと違法しかも、1人あたり100グラムを下回ると許可が取り消される。

・四万十川では、特別採捕の許可は、かつては抽選だったが、現在は廃止。欠員が出たときでないと新規取得は無理。

・四万十川で採れたシラスの正規ルートでは、許可を得た「指定集荷人」⇒「高知県しらすうなぎ流通センター」⇒県内の養鰻業者という流れだが、3割しか流れない。7割

は闇ルート

・1960年代では、シラスがそこかしこで採れたが、全国的な不漁で唯一高知県が豊漁だったころから、密漁者があふれ、ゴールドラッシュの鉄火場になる。

・高知県春野町で生まれた養鰻の技術が、鹿児島県に伝えられて、結果的に鹿児島県は全国一の養鰻県となる。

・県外に流出していたシラスを県内の養鰻業者のために確保するために生まれたのが「高知県しらすうなぎ流通センター」だが、流通センターに卸す「正規価格」と県外に流す「闇価格」という2重価格が生まれる弊害が発生してしまう。

・かつては密漁で逮捕されても10万円の罰金で済んだので、密漁はローリスク・ハイリターンなビジネスとなってしまう。

・一攫千金狙いの密漁者、闇ルートで稼ぐ仲買人、シラスを資金源にする暴力団、高値でシラスを買う県外業者という利害の一致が、シラスウナギの闇を生み出している。

 

第二部「流通編」の要約

・採捕人からシラスウナギを買い取る闇ブローカーが県外に売りさばいている。

・高知県しらすうなぎ流通センターに出荷することは、採捕人と指定集荷人の義務だが、闇ブローカーの県外流通は取り締まる罰則がない。

・高知県しらすうなぎ流通センターに出荷することは、県の漁業調整規則や特別採捕取扱方針で決まっているが、正規ルートであるセンターに卸すほど赤字となってしまう。

・闇ルートで県外ばかりにしらすが流出させると、県内の養鰻業者や集荷人がつぶれてしまうことから、赤字でも正規ルートに出荷している。つまり、正規ルートの赤字は、闇ルートの黒字で補填しているという現実。

大手の養鰻業者ほど、密漁や出所がわからない「裏」のシラスウナギを買わないので、規制が緩いX県の採捕人から買ったかのように偽装して「裏」のシラスを「表」のシラスにロンダリング(シラスロンダリング)している。

・国内のシラスウナギの20%を引き受ける年商数十億「シラス王」が県外だけでなく、海外に輸出している実態を告白。(輸出規制の無い香港を通じたルート)

・国内一位のウナギ生産量の鹿児島県でもシラス不足が生じており、高知県の正規ルートの2倍以上で買い取られているが、宮崎県はさらに高く買い取られている。

・宮崎県の養鰻技法「単年」によって、ウナギが高く売れる結果、シラスの買取価格も高くなってしまい、高知県内の養鰻業者までシラスが回らないということも。

・高知県では正規ルートで価格を抑えようとしているものの、闇ルートの「自由競争」によって価格が高騰してしまい、消費者が手が届かなくなる高級品となっている。

 

第三部「規制編」の要約

・シラス密漁の罰金を現行の300倍の3000万円に引き上げる法改正2023年から始まる。

・罰則強化の背景には、高知県内の業界関係者が、高知県選出の中谷元代議士に陳情をし、自民党水産部会において水産庁に罰則強化を求めた。

・密漁に対する罰則強化は黒いダイヤといわれる乾燥ナマコやアワビだけだったが、シラスは流通ルートが複雑で管理が難しいため制度改正に消極的だった。

・シラス密漁の罰則強化とする場合、現在の「採捕」から「漁業」に変更となり、原則、県外への販売が自由化される。

・自由競争となれば、スケールメリットで生産コストを削減できる大規模な養鰻業者が有利となり、中小の養鰻業者は廃業せざるを得なくなる恐れがある。

・一方で流通を規制する高知や静岡は、地場の養鰻業者を守ることが第一で自己中心的という批判もある。

ウナギ資源が世界的に絶滅の危険がある中で、漁獲量をコントロールしていくアイデアを水産庁も示せていない。

 

 

「追跡・白いダイヤ」の感想

読み終わった後、今後、ウナギを食べるときに「このうなぎは闇ルートなのかな。。。?」という思いを抱くと思うと、読まなきゃよかったとも思いました(笑)

本当に面白い。こんなリアルで、人間臭い文章が書けるのも、しっかりとした取材があったと思う。

というか、この本には書けない、もっと生々しい情報もあったと思うと、うーん、本当にウナギ業界は闇が深い。

 

【感想1】中小零細企業への保護は、エゴなのか?

本書で驚いたのは、高知県内の養鰻業者を保護するために生まれた「流通センター」が、逆にマーケットの歪みとして、うなぎの2重価格の原因となり、うなぎの闇市場を生み出しているという事実。

地獄への道は、善意で舗装されているという格言もありますが、闇ルートと正規ルートが、もはやお互い相互補完しているという関係性ができていることから、透明化、自由競争と訴えても、結局、行きつく先は、自由競争、資本主義の論理で、高知県内の中小養鰻業者は淘汰されるでしょうね。

競争で強者にいる意見としては、産業保護や規制は、マーケットから本来、淘汰されるべき事業者を延命させて、マーケットの貴重な資源を食いつぶしているフリーライダーと思っているでしょう。

しかし、競争の弱者にいるサイドも、雇用を抱えて、生活を営んでおり、彼らの暮らしを守ることは、規制をコントロールしている政治と行政の責任です。

高知県のように、全国的にスケールメリットが劣る自治体は、産官が連携していくことが必要です。

確かに、東京や大阪といった都市部から見れば、これはエコひいきと思われることでしょう。

しかし、地方経済を政治と行政が支援していくことが、ひいては都市部の経済を下支えすることとなり、日本全体とみても国益に適うことです。

なので、エゴや既得権と思うのは、あくまでも偏見だと思いますが、国際社会の外圧の中で、果たして維持できるかといわれると自信がないところですね。

今後、グローバルスタンダードの競争原理が全面に押し出されるとき、大半の高知県内の業者は生き残っていけるでしょうか・・・

 

【感想2】紛争解決者としての暴力団の排除と今後の紛争解決

これはうなぎに限らずですが、いろんな業界では、グレーな業界って結構ありますよね。行政も司法も紛争解決から逃げて、結局、頼れるのが暴力団といった反社会的組織。もちろん、反社は決して容認されるものではありませんが、高知県内の歴史として、反社が「侠客」という形で社会の一定の役割を担ってきた事実があります。鬼龍院花子の一生ではありませんが、高知の文化史にも、侠客は登場しています。

でも、そんな侠客や極道も、暴力団排除の流れを受けて、資金源が途絶えて、最後の利権が、高知県では「しらす」というわけですね。

今後、透明化、人権が尊重される時代となってしまい、暗黙で社会が認めていたものが、許されなくなり、すべて法制度で解決される時代が進むことでしょう。

とはいえ、すべて法制度で解決できず、法の外にいる人々も排除となれば、最後はどのような紛争が解決されるのでしょうか。

最後は、結局、地域の顔役がいなくなって、行政依存となる社会となってしまい、地域社会へのつながりが希薄化していくとも思ったりします。

一方で、行政の役割を大きくしようにも、行政改革やら財政再建で、公務員の取り巻く環境が厳しくなっているようです。

公務員の働き方がブラック化、非正規公務員が増えている現実を、私たち有権者も考えねばなりませんが、結局、紛争解決は、自己責任ということになっていくのでしょう。

 

 

【感想3】人間社会の理屈で天然資源を食い尽くすのも滑稽

一方で、人間社会の都合で、うなぎという資源を食い尽くすことは、持続可能な社会の実現を図っていくSDGsなトレンドの中では許されないことです。

ここらへんは、あまり本書では触れられていませんが、世界的にはうなぎという絶滅危惧種を食いまくっている日本はけしからんと思われているのでしょう。

しかも、香港など規制の緩いルートを使って、脱法的に輸出をしていることも、悪い印象を与えています。

うなぎのような天然資源を扱う業界は、天然資源を保全していくことに真剣です。

なので、天然資源を経済原理だけで乱獲することは、天然資源を保全してきた業界への冒涜です。

そんな冒涜をしているのが、シラスの密漁者であり、彼ら密漁者のバックにいる暴力団です。

とはいえ、暴力団の肩を持つわけではありませんが、侠客、極道といわれた人々を、密漁者に追いやったのも、暴力団対策法のような法規制も原因の一つでしょう。

なので、単なる罰則の強化だけでは、根本的な解決にならないと思います。

まあ、食い扶持を稼ぐために密漁をしているというのは、まさに人間の理屈なんですけどね。

 

【まとめ】「追跡・白いダイヤ」は高知県民なら読んでおくべき1冊

ということで、今回は、高知新聞の「追跡・白いダイヤ」は、高知県民なら読んでおくべきでしょう。

高知新聞で連載しているときも、切り抜きをしていましたが、一冊になって買って正解でした。

ノンフィクション好き、第一級のルポなので、これは読むことをおすすめします。

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~ 単行本 – 2022/9/20

アマゾンkindleでも読めるようですので、連休中にいかがでしょうか?

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